鯨が海を選んだ日 ■□戻る□■

◇◆◇土肥あき子 第一句集◇◆◇


富士見書房 2002年7月7日発行
序文【繊細なる野放図】清水哲男
(品切れ再版未定)


水温む鯨が海を選んだ日

 この句に出会ったときのことを今でも覚えている。
 「俳壇賞」の選考で出会ったのだが、確かそのとき、この句に出会ったことで今回の選考の意義があった
という意味の放言をした。
 それくらいにこの句は鮮やかだった。
 早春の季節感を大きく、しかも深々と、さらに言えばとても楽しく表現しているではないか。

(坪内稔典/2012年2月17日「e船団」)


『鯨が海を選んだ日』抄

水温む鯨が海を選んだ日
腹這へば乳房あふれてあたたかし
花の種蒔いてしばらく上の空
わたしみたいなあなたに出会ふ木下闇
何百の腕放り出し盛夏なり
夏服となり帆柱の心持ち
長雨や金魚玉にも水平線
ある時は戦火の上を鳥帰る
飼猫も準飼猫も冬日向
白息をどかと吐き馬一列に